大会長挨拶
リハビリテーションの現場では、患者一人ひとりの複雑な症状や個別性に対し、セラピストの「経験」や「感覚」に根ざした判断が日々積み重ねられています。これらの判断や介入技術は、しばしば言語化されにくく、いわゆる暗黙知(tacit knowledge)として継承されてきました。その一方で、近年のリハビリテーション分野においては、エビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine:EBM)が強く求められ、形式知(explicit knowledge)としての科学的根拠の提示が重要視されるようになっています。神経可塑性、運動学習理論、バイオメカニクス、ロボティクスなど、神経科学的知見は年々積み重なっており、臨床の「肌感覚」を言語化・構造化するための基盤が徐々に整いつつあります。
本大会では、「臨床(暗黙知)と科学(形式知)をつなぐ - 神経リハビリテーションからの提言 -」をテーマに、神経リハビリテーションの現場で培われた暗黙知を再評価し、それをどのように言語化し、現代の科学的視座から再構築するかを議論します。暗黙知と形式知を、どちらが正しいかという対立ではなく、互いの価値を認め合い相互補完しながら臨床の質を高める道筋を探ります。臨床の問いが研究の新たな仮説を生み、研究の成果が臨床の意思決定を支える、その循環を強めるための場にしたいと考えています。
特別講演では、森之宮病院の宮井一郎先生、ボバース記念病院の荒井洋先生をお招きし、最先端の神経科学的知見に基づくリハビリテーションの考え方と、臨床とのつながりについてご講演頂きます。両先生は、科学的根拠と臨床の実践を橋渡しする取り組みを長年続けてこられ、その知見は本大会の主旨を象徴するものです。また、シンポジウムや口述発表などを通じて、参加者自身の臨床実践を言語化し、他者と共有し合う場を設けることで、暗黙知の可視化を実現する機会とします。症例を通した臨床推論の過程、評価の着眼点、介入の工夫、反応の読み取り、迷いと修正のプロセスまで含めて議論できる場を目指します。経験年数や職種、所属の違いを越えて対話することで、暗黙知はより確かで共有可能な知へと磨かれていくはずです。
多様な視点が交わることで、神経リハビリテーションの実践はさらに豊かになり、患者さんの生活により良い変化をもたらすと信じています。本大会が、その対話の起点となる学術大会となるよう準備を進めております。多くの臨床家、研究者、教育者の皆様のご参加を心よりお待ちしておりますので、どうぞ宜しくお願い致します。